蟻の兵隊蟻は小さく、集団で黙々と働き、そしてヒトの大きな手ひとつでつぶされる生き物。 1945年8月15日、ポツダム宣言の受諾によって終戦を迎えた日本ですが、中国の山西省にいた日本軍の一部の部はが武装解除をすることなく中国に残留、後に中国国民党軍に編入されて中国共産党軍との内戦を戦っていました。やがて捕虜になったりして帰国した彼らは日本政府によって逃亡兵とみなされます。政府は残留日本軍が自らの意志で勝手に戦争を続けたとの立場をとり、責任追及から逃れている軍司令官の命によるとの主張を退け、元残留兵たちへの戦後補償を拒み続けているとのこと。その元日本兵のひとりが80歳の奥村和一。この映画では奥村和一にスポットを当てて日本軍山西省残留問題を描き出しています。 先のエントリーで挙げた『私は「蟻の兵隊」だった』で初めて日本軍山西省残留問題を知り、興味を持って映画を見に行きました。 一人の行動をずっと追いながら撮っていくドキュメンタリーでは原一男監督の『ゆきゆきて神軍』が奥崎謙三の「自分を創るキャラクター」も相まってインパクトのあるドキュメンタリー映画になっていましたが、この映画では非常に素直な部分を感じさせる元日本兵の奥村和一を生活、裁判、そして事件の現地を訪ねる場面をじっくりと追った作品になっています。 正直なところ、この事件については一つ前にエントリーを挙げた岩波ジュニア文庫の『私は「蟻の兵隊」だった』を読めば系統だてて深い理解ができると私は思います。また、個人的にはドュメンタリー映画の編集や採音などの技術としてもうひと工夫してほしいと思うようなところもありました。しかしながら映画には映画ならではの映像が見せる部分があって、いくつかの印象深いシーンがありました。ひとつは奥村和一が「日本兵に戻る」シーン。もうひとつはつらい思いをした劉面煥の訥々とした体験を話された後に諭される場面、そして小野田寛郎とその周りを取り巻く仲間の目です。これらについては映画でなければ感じることのできないストレートなものを受け取りました。 先日、雑誌「世界」に今年3月まで連載されていた『戦争で死ぬ、ということ』(島本慈子・著/岩波新書)が出版されましたが、ここでも同じようなことが映画の中のひとつのテーマになっています。戦争という「イベント」において、いかにたやすく人は殺人者になるのか、そしてその異常な実態を何が作り出しているのかが、幕の袖から見えてくるような気がします。 今、たまたまこの場所では平和がありほぼ自由な発言ができる環境にありますけど、ひとたび何かが起こった時にそれが保証されるとは限りません。ましてや仮に周りと同じでないことに不安を覚え、周りがやっていれば、見つからなければ、いくらでも自分を偽ることができ、事が過ぎれば「責任者」の断罪でリセットするような社会や国があったとしたら、その社会や国はどうなることでしょう。 我々は成長していく若者や生まれてくる子供達にいったい何を残すことができるのでしょうか。歴史を学ぶということは、決して年号を暗記することではなく、経験から誤りを回避するためのものだと思います。貴重な経験を消え去る前に残すことは大変大事なことだと思います。この映画を見ることができてよかったと思うし、過ちを繰り返さないためにも語り継いで生きたい映画のひとつです。 『蟻の兵隊』公式サイト 【蟻の兵隊 2006年 日本】
by santapapa
| 2006-08-09 23:55
| 邦画
|
心に残る映画、ウキウキする映画、トホホな映画などについてをつれづれなるままにつづります。レビューは偏った主観なのでそこはそこで。トラックバックはカテゴリーの「トラックバックについて」参照。 by santapapa
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