BLACK

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多くの人が知っているであろうヘレン・ケラーとアニー・サリヴァン先生の克服の物語。1962年、そして1979年に『奇跡の人(THE MIRACLE WORKER)』として映画化もされています。

その物語をベースに設定を変えて独自の視点から撮られた映画が『BLACK』。『KHAMOSHI THE MUSICAL』で映画監督デビューをしたサンジャイ・リーラ・バンサーリー監督の4作目に当たる映画で、2005年にインドで上映されて感動を呼び起こして大評判に。昨年のインドのFilm Fare Awardで作品賞、主演男優賞、主演女優賞、助演女優賞、監督賞を受賞したそうです。

インド映画なのですがミュージカル・シーンがなく、また上映時間も2時間弱といった一般的な映画に近い仕様で、ストーリー、映像、演技、演出がどれも素晴らしい心に染みる映画だけに、ぜひとも日本の劇場で上映してほしいと思う作品です。



デリー北部のシムラーのある冬。ミシェル(ラーニー・ムカルジー)と母キャスリン(シェルナーズ・パテル)は車で昔の家の傍を通った時に、噴水の畔に佇む老人を見かけます。彼こそはミシェルの恩師であり12年前に姿を消したデブラジ・サハーイ先生(アミタブ・バッチャン)でした。しかし、サハーイ先生は認知症の進行によってミシェルのことが判りません。病院に収容されたサハーイ先生を見舞いながら、ミシェルの心は幼い頃からの記憶に飛んでいきます。

裕福な家でポール・マクナリー(ドリティマン・チャタルジー)とキャスリン・マクナリーの間に生まれたミシェルは、2歳の時に病気が元で視力と聴力を失い、言葉を喋ることができずにどうしたらよいのか判らない両親の下、放任されて成長します。他人とのコミュニケーションの手段をほとんど持たず、自分の感情を抑えることのできないミシェル(子役/アーイシャ・カプール)は食べ物を食い散らかし、蝋燭を倒して火災未遂を起こし、赤ん坊の妹サラを揺りかごから放り出したりしてしまいます。その獣にも似た行動をもてあました父ポールは8歳のミシェルを病院に入れることを決意。母キャスリンは最後の望みとして家庭教師を雇うことにします。マクナリー家に来たのは元アルコール依存症で視力が衰えた教師サハーイ。サハーイ先生はペットのようにミシェルにつけられた鈴を外し、ミシェルを厳しく教育することを始めます。サハーイ先生がミシェルに初めて皮膚を通じて教えた言葉が闇を表す「BLACK」でした。

ところが叩くことも辞さないサハーイ先生の厳しい教え方に不安を募らせた両親は、間もなくサハーイ先生を解雇することにします。しかし、サハーイ先生もミシェルの将来のことを考えると引くことができず、母キャスリンを説き伏せて20日間の父ポールの出張中にミシェルと向き合い、集中的に教育をします。だがあまりにも短期間だけにその進捗はあまり芳しくなく、礼儀作法は少し身についたものの、言葉とその意味がまだ結びつかせることができません。そうして出張から帰った父ポールは激怒、サハーイ先生を即座に追い出し・・・・・・。

冒頭から物語に引き込まれて、気がついた時には涙を流していました。ヘレン・ケラーとアニー・サリヴァン先生の話が元にはなっているのですが、そこにサンジャイ・リーラ・バンサーリー監督独自のひねりが加えられていてそれがとても切ないです。そして、ラストまで見て明日を信じたいと思う気持ちになれる心に染みる映画でした。映画のタイトルでもある『BLACK』、それが単に「黒」でも「闇」もないことを語るミシェルの「言葉」を始めとして、深い映画であるように思います。

デビュー作の『KHAMOSHI THE MUSICAL』もこの『BLACK』も見て思うのは、この監督は人と人の絆を決して表面的ではなく、丁寧に細かく優しい気持ちで描写するのだなあといった印象です。だからこそ、主人公のみならずそれぞれの登場人物の気持ちが伝わってきて心が温かくも切なくもなってくるのではないでしょうか。そしてそれに答える素晴らしい俳優陣。インドのFilm Fare Awardで主演男優賞、主演女優賞、助演女優賞を受賞したそうなんですが、充分納得のいく迫真の演技が素晴らしい。サハーイ先生を演じたアミタブ・バッチャンは見かけの雰囲気もさることながら、場面場面に応じた表情に加えて目が生きたり死んだりしてますし、ミシェル役のラーニー・ムカルジーも三重苦の女性をこの上ないと思われるような熱演。そして、新人の子役だというアーイシャ・カプール!その表情と動きには演技にはとても見えないぐらいに鬼気迫るものがありました。

『KHAMOSHI THE MUSICAL』も美しい映像が目を惹きましたが、この映画では技術の進歩もあってか全編美しい映像と演出がなされていてそこも見ごたえがあります。ミュージカル・シーンは無いものの、サウンド・トラックはストリングスを主旋律に使った情緒的なもの。私の好みからするとちょっと情緒感たっぷりすぎるきらいがある気もしますが、映像にはよくマッチしています。びっくりしたのが2時間弱の映画なんですけど、真ん中当たりにしっかりインターバルがあるんですね(笑)。習慣上つけないと座りが悪いのでしょうか。

この映画、現在は輸入DVDでしか見ることができないのが残念。英語字幕がついていますが、平易な訳なので理解しやすいと思います。また、インド・アジア雑貨専門店「ティラキタ」ではWindows PC用に再生時に同時に見ることができる日本語字幕を用意したセットを出しているそうです。サンジャイ・リーラ・バンサーリー監督の映画は、日本では今までに1999年の第2作目『ミモラ 心のままに』しか劇場公開されていませんが、『KHAMOSHI THE MUSICAL』と共にこの『BLACK』はぜひとも日本で劇場公開してほしいものです。


【BLACK 2005年 インド】
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by santapapa | 2006-08-07 04:04 | インド映画
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