グッドナイト&グッドラック

グッドナイト&グッドラック

「歴史は自分の手で築くものです。
もし50年後か100年後の歴史家が、今のテレビ番組を1週間分見たとする。
彼らの目に映るのは、おそらく今の世にはびこる退廃と現実逃避と隔絶でしょう。
アメリカ人は裕福で気楽な現状に満足し、暗いニュースには拒否反応を示す。
それが報道にも表れている。

だが、我々はテレビの現状を見極めるべきです。
テレビは人を欺き、笑わせ、現実を隠してる。
それに気づかなければ、スポンサーも視聴者も制作者も後悔することになる。」

     [報道番組制作者協会 1958年10月 エドワード・R・マローの公演より]




1950年代、USAの3大ネットワークのひとつCBS(Columbia Broadcasting System)では日々の社会情勢を伝える報道番組「シー・イット・ナウ」が人気を博していました。キャスターを務めるのはエドワード・マロー(デヴィッド・ストラザーン)、そしてプロデューサーはラジオ時代の「ヒア・イット・ナウ」の頃からコンビを組んでいるフレッド・フレンドリー(ジョージ・クルーニー)。時代は中国が共産主義国として生まれ変わり、ソビエト連邦の原子爆弾の実験、続いて水素爆弾の実験の成功もあって米ソの冷戦が激しさを増す中、USAの国内ではマッカーシー上院議員を中心にに、国内の共産主義者の徹底した排除活動が行なわれます。ところがその題目は政府に反対する者のレッテル貼りにも利用されるようになり、それに対して政府の報復を恐れるマス・コミュニケーションも下手な口出しをしないような空気が全体を占めていきます。その最中、ある空軍兵士の事件をきっかけにマローとフレンドリーはそのことを番組内で採り上げることを決意。日々国民がブラウン管を見守る中、自由のためにマッカーシーの欺瞞を暴く準備を始めます・・・・・・。

USAでは広く知られている実話を元にしたジョージ・クルーニー監督渾身の作品。実際ジョージ・クルーニー監督自身にとってもエドワード・R・マローは子供の頃からのヒーローだったそうで、またジョージ・クルーニーの父親がKWRCのアンカーマンだったことも大きく影響しているそうです。タイトルの『グッドナイト&グッドラック』は、そのCBSの報道番組「シー・イット・ナウ」の結びに必ずエドワード・マローが口にする決めゼリフ。

この映画の中心になっているエピソードである報道番組「シー・イット・ナウ」の「マッカーシー」の特集をした1954年3月9日の放送は4,000万人が見たと言われ、映画の中でも述べられているように15対1の割合で圧倒的な支持をうけたそうです。そこには当時の米ソ冷戦の激化によるマッカーシー上院議員による、俗に言う「赤狩り」の高揚が罪なき人々までも恐怖に陥れた歴史的背景があります。そのために映画界でもチャーリー・チャップリンやウィリアム・ワイラーなど多数の人々がが告発排斥されたという不幸な歴史もありました。ロバート・デ・ニーロの『真実の瞬間』でご存知の方もおられると思いますし、興味のある方は陸井三郎『ハリウッドとマッカーシズム』(現代教養文庫)などを読まれるといいかもしれません。

映画は、当時のフィルムも差し挟むということによる親和性や時代の雰囲気を考えてというのもあるのでしょうが、全面モノクローム。そして、ジャズがしおりのように場面間に差し挟まれます。これが実に雰囲気よく作られています。「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」や「ソリチュード」などのスタンダード・ナンバーを洒落たアレンジで歌っているのが、映画の中で歌手として出ているダイアン・リーブスですから、私には文句のつけようはありません。そして全編タバコの煙が印象的な映画でもありました。私はタバコは大きらいですが、映画は臭ったり煙を吸い込んだりしませんからね(苦笑)。

非常に硬派な印象の映画ですが、変な具合に感動の押つけを狙ったり、「敵」を不必要に貶めたり、ストーリーを不自然に盛り上げることはせず、一見淡々とジャーナリストの魂を徐々に浮き彫りにしていくようなカメラワークと演出が、かえって静かな感動を生むのではないでしょうか。役者もすばらしく、特に実在の本人像にぴったりで気骨がそのまま人間になったようなマローを演じたデヴィッド・ストラザーンは他の役者では考えられないぐらいのハマり役でした。マッカーシー特集の放送の後、バーで朝まで語り明かした時の役者同士の表情だけでの会話などにも唸らされます。正にシブくてカッコいいおとなの映画。そして、1950年代を映して現代に、そして将来に通じるメッセージを伝えてくれます。

ちなみにエドワード・マローの人気番組「シー・イット・ナウ」の録画は現在も残っていて、海外ではもちろんのこと、日本でも日本外語協会からベスト選集のビデオ9巻が発売されていて、その中にも1954年3月9日に放送されたマッカーシーの特集、1954年3月16日に放送されたアニー・リー・モスの上院調査委員会の証言、1954年4月6日に放送されたマッカーシーの反論、1954年4月13日に放送されたマッカーシーの反論に対するエドワード・マローのコメントが収められているそうです。


エドワード・マローのシー・イット・ナウ
エドワード・マローのシー・イット・ナウ


海外で出ているDVDの一部
The Best of See It NowThe Edward R. Murrow CollectionThe Edward R. Murrow: The McCarthy Years



「だが、もし私の意見が間違っていたとしても、失うものは何もない。
もしテレビが娯楽と逃避のためだけの道具なら、もともと何の価値もない。
テレビは人間を教育し、啓発し、情熱を与える可能性を秘めている。
だが、それはあくまでも使い手の 自覚次第だ。
そうでなければ、テレビはメカの詰まった”ただの箱”だ。」

     [報道番組制作者協会 1958年10月 エドワード・R・マローの公演より]




『グッドナイト&グッドラック』公式サイト



【グッドナイト&グッドラック(GOOD NIGHT, AND GOOD LUCK) 2005年 USA】
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by santapapa | 2006-05-27 14:52 | 洋画一般
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