風が吹くとき『スノーマン』で有名なレイモンド・ブリッグスが核戦争の恐怖を静かに描き話題になった絵本『風が吹くとき』を映画化した作品。レイモンド・ブリッグス自身が製作・脚本を担当したことでも力の入れようが判ります。 二つの世界大戦を体験して今は子供たちも独立したのでイギリスの片田舎に二人きりで住んで、年金で残りの人生をのんびりと過ごすジムとヒルダの老夫婦。ところが世界情勢の悪化で戦争が起こったのを知り、核爆弾からの攻撃に備えて政府が発行したパンフレットにしたがって、家のドアをはずして室内に簡易シェルターを作ったり、窓に白ペンキを塗ったりします。そして、ラジオからは核ミサイルの飛来の知らせが。急いで簡易シェルターに伏せるふたり。原爆の落下点を中心にすさまじい熱風があたりを壊滅状態にしますが、そこから外れていたふたりの家は崩壊寸前に至るも、ジムとヒルダは生きていました。新聞もラジオも電気もガスも通じない中、ふたりは政府の救援隊を待ちます。「何も見えないわ。どこにも放射能なんて見えないもの」と言いながらわずかな蓄えでしのぐふたりには、じわじわと放射能の影が忍びよってきます。次第に衰弱していくふたりは・・・・・・。 核爆弾が落ちるまでの日常を実話を元に描いたのが『TOMORROW 明日』、架空の話を映画にしたのが『世界大戦争』だとすれば、これは核戦争後の話が主体になっています。アニメーションでの『ザ・デイ・アフター』に相当する話とでも言いましょうか。 原作の絵本は出た当時に私も買いましたが、深く心に残る絵本のひとつでした。映画化に当たって効果的に実写を挿入していますが、原作に忠実でありながら映画は映画としての作品として作り上げることに成功していると思います。ほとんどが老夫婦ふたりの会話で成り立っている作品で、脚本のよさもあるのでしょうがいい具合にリアリティのある会話になっています。また全編を通して静かに進行していく様子が、じわじわと迫ってくるような恐怖を感じさせてくれます。老夫婦ふたりのとぼけた会話に思い入れができてしまうので、時が進行していくにつれてちょっと見ているのがつらくなるかもしれません。 日本語吹替え版は大島渚が日本語版監修をしていますが、老夫婦を演じているのが森繁久哉と加藤治子。これが、このふたり以外では考えられないほどのぴったりとはまった会話でした。 タイトルはマザー・グースの中からとられた題名とのこと。ラストに夫が妻に言って聞かせる聖書の引用が心にずっと残ります。 この映画、大変残念なことに今のところ日本ではDVD化されていないようです。かつてビデオでは出ていたのですけど。 主題歌はデヴィッド・ボウイ、音楽はロジャー・ウォーターズが担当。『ピンク・フロイド ザ・ウォール』と非常に共通する世界観と音楽を感じます。そういえばピンク・フロイドのデイブ・ギルモアが才能を見出したイギリスの才媛ケイト・ブッシュが1980年に発表した3枚目のアルバム『魔物語(Never For Ever)』のラスト2曲も併せてお聞きください。イギリスのフォークソングを思わせるメロディの「夢見る兵士(Army Dreamers )」、そしてこの映画同様核戦争をテーマにしている息苦しい「呼吸(Breathing)」は時代を越えた名曲だと思います(どちらもプロモーション・ビデオがあって、これがまたいい出来ですので機会があれば見られてください)。 絵本:『風が吹くとき』 ケイト・ブッシュ:『魔物語(Never For Ever)』 【風が吹くとき(When the Wind Blows) 1986年 UK】 [トラックバック先]毎日が映画記念日
by santapapa
| 2006-05-14 23:54
| 洋画一般
|
心に残る映画、ウキウキする映画、トホホな映画などについてをつれづれなるままにつづります。レビューは偏った主観なのでそこはそこで。トラックバックはカテゴリーの「トラックバックについて」参照。 by santapapa
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