雨月物語

Ugetsu

上田秋成の古典『雨月物語』の中から「蛇性の婬」、「浅茅が宿」をベースにアレンジされた物語を溝口健二監督が映画化した作品。海外では『Ugetsu』、『Ugetsu-Monogatari』でも知られているそうです。



時は戦国の世、北近江に住む源十郎(森雅之)は妻の宮木(田中絹代)とまだ生まれて年も経たない息子の源市(沢村市三郎)の三人で暮らしていて、農作業の傍ら夫婦で協力しながら轆轤で陶器を作っていました。戦乱の中戦々恐々と生きる源十郎はある時、一旗上げるためにと陶器を作り貯めると市へ売りに出ようとします。弟の藤兵衛(小沢栄)は妻の阿浜(水戸光子)と暮らしていましたが、侍への出世を夢見ていました。源十郎と藤兵衛は家族を置き去りにして市にたどり着き、源十郎は露店で焼き物を売るうちに朽木の若狭(京マチ子)と名る女性から多くのを買い上げてもらいます。いそいそと屋敷に陶器を届けた源十郎は屋敷で豪勢なもてなしを受けて、そのまま朽木の屋敷に入り浸ることになります。若狭の正体も知らずに・・・・・・。一方、藤兵衛は羽柴の軍勢に紛れ込み、どさくさにまぎれて兜首を拾います。思わぬ幸運に藤兵衛は自分の手柄として報告し、褒美に馬と家来を押し頂き故郷に凱旋しようとしますが。、その帰り道に遊女宿に寄ってしまったところ・・・・・・。

物理・数学好きの所謂バリバリの理系人間なんですが(苦笑)、私を江戸文学の道に誘ってくれたのが、平易な現代文に訳された上田秋成の『雨月物語』でした。好きな短編が多く、「菊花の約」や「夢応の鯉魚」などは今も心に残る話です。元々ホラーはあまり好きではないのですが幽霊・妖怪話とか幽玄にたゆたう話とかはきらいじゃないので、その後小泉八雲や泉鏡花、芥川龍之介の小品などを読むようになりました。

この映画もまずは幽玄を感じさせる美しい映像が印象に残りました。湖の上のシーンや朽木の屋敷、モノクロームの映像なのですが、随所にハッとするような映像がまみえます。その根底にあるのは環境に培われた日本人としてのDNAなんでしょうかねえ。

そしてそれを最大限に活かしている音。時に音楽のように感じさせる俳優のセリフがいいし、早坂文雄の音楽が活きています。湖上でのひたすら定間隔で遠くに鳴っている大太鼓には唸らされましたよ。また雅楽を意識したような音楽の他にも、日本趣味であったドビュッシーを思わせるハープのフレーズが美しく使われていて、私は早坂文雄の映画音楽の中でも映像との結びつきは屈指の出来だと思っています。

俳優陣の名演技もすばらしい映画です。中心になる元来小心者の森雅之、情感を出す田中絹代、幽玄を演出する京マチ子と見事な具合に役にはまっています。しかし、男って本当に、実にどうしようもなく浅はかですなあ(苦笑)。

ひとつ気になるのはこの『雨月物語』のDVD、海外ではUSAやUK、韓国でも発売されていますが、私の知る限りでは日本で出ている気配がありません。もしかすると今の日本人にはこういう映画は理解されがたく、出しても買う人はいないと思われているのでしょうか。そうだとすれば、私には大変悲しいことに思えます。


【雨月物語 1953年 日本】
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by santapapa | 2006-05-08 23:58 | 邦画
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