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キューバの恋人

キューバの恋人

『TOMORROW 明日』『美しい夏キリシマ 』の黒木和雄監督が『とべない沈黙』の次に制作した劇映画第二作。黒木和雄監督は先週の4月12日に脳梗塞でお亡くなりになりました。謹んで哀悼の意を表したいと思います。



1968年夏、キューバで漁業指導員をしているお気楽な日本人青年アキラ(津川雅彦)は休暇を利用してハバナでナンパにいそしみます。そんな中でアキラはふと出あった美しいムラータのマルシア(ジュリー・プラセンシア)に惚れます。タバコ工場で働く一方、銃も使いこなすマルシアは革命の精神に燃え、キューバの民兵を兼ねていました。極楽蜻蛉のアキラはマルシアの気を惹こうと彼女につきまといますが、生真面目なマルシアのガードは固く、会話はできてもなかなか打ち解けることができません。やがて、アキラはマルシアの故郷サンチャゴ(サンティアゴ・デ・クーバ)まで行き、「彼女の家族」と対面することになります・・・・・・。

『とべない沈黙』がキューバでも評判になって、キューバ革命10周年記念にむけて共同制作を持ちかけられたのがきっかけの映画。日本からはわずか7人のスタッフで臨んだモノクロームの劇映画です。「キューバ革命10周年記念」で共同制作だと、キューバ共産党の御用映画になっているのではないかと思われるのですが、なかなかどうして、革命に対するメッセージ性は強いものの、キューバを西から東に横断するロード・ムービーに仕上がっています。

1968年に撮影された映画ですが、それから四半世紀後の1994年に私がキューバのハバナとサンティアゴ・デ・クーバに行った時に見た風景も建物も、通る車さえもほとんど変りがありませんでした。フィデル・カストロはさすがに今よりは断然若かったですけど(笑)。もちろんサトウキビと葉巻、そして最近では観光ぐらいしか目ぼしい産業が無く、USAによる経済封鎖によるものが大きいからでしょうけど。そして、「アキラ」も四半世紀の中でほとんど変っていないのかもしれません。「戦う目標もないくせに」という問いに考えも無く「あるさ。銃を持ってたら敵を撃つよ」と答えるアキラですが、マルシアの「その敵って誰?」という切り返しに口ごもるアキラ。しかしまた、そのアキラの視線を通して監督は暖かくこの映画を見守っています。

記録映像を取り込んでいる部分もあって記録映画の側面もあるのが貴重です。また、鈴木達夫の光と陰影を生かした映像がすばらしいですね。そして機会があれば歌を歌うキューバの人たちだけあって、カーニバルのみならず、バスの中や街角で現地の音楽もふんだんに流れるのがとても嬉しい。「グァンタナメラ」は思わず一緒に「ワンタナメラ、ワヒラ、ワンタナメラ」と歌いたくなってしまうぐらい。国際空港の名にも残っているホセ・マルティの素朴でかつ、身に染む歌詞が字幕に出ます。松村禎三の少しロドリーゴを思わせるテーマ曲もそれに溶け込んでマッチしていました。

マルシアを演じたジュリー・プラセンシアは当時のミス・ハバナだったそうで、映画はおろか演技は初めて。実際にタバコ工場で働いていて銃の名手だったそうで、素の性格も人物像もほとんど映画の通りだったそうですね。


【キューバの恋人 1969年 日本=キューバ】
by santapapa | 2006-04-20 23:50 | 邦画
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