銀嶺の果て

銀嶺の果て

一昨年には卒寿を祝うコンサートも行われた日本を代表する現代音楽家・伊福部昭氏が2006年2月8日に91歳でお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。氏は現代音楽の作曲の他にも映画音楽でも広く知られています。戦後に既に東宝で映画音楽を担当していた同郷の早坂文雄の薦めで東京に出てきた伊福部昭氏は、同じく早坂文雄の紹介で知った東宝の音楽部長・掛下慶吉からの依頼で、1947年に初めての映画音楽を担当したのが『銀嶺の果て』です。終戦後僅か2年という戦災の痕爪も生々しい貧しい時期に作られたこの映画は黒澤明の脚本でも知られていますが、音楽の伊福部昭と同時に谷口千吉監督、そして後に「世界のミフネ」と称せられる若き三船敏郎、幼き若山セツ子にとってもデビュー作でもあるサスペンス溢れる現代劇の大衆娯楽映画でした。



野尻(志村喬)、高杉(小杉義男)、江島(三船敏郎)の3人は共謀して銀行を襲い現金を強奪、 逃亡の末、北アルプス山中にに逃げ込みます。温泉宿に身を隠すものの宿泊客に気づかれて、客の衣服を剥いで宿から出られないようにしながらさらに山奥へと逃亡します。3人は別々に逃げる可能性も念頭において夜中に金を山分けして雪の中を進みますが、警官に追いつかれそうになり高杉が犬に向かって発砲。警官隊と犬、そして高杉は銃声によって起こった大雪崩に巻き込まれてしまいます。残った野尻と高杉は大吹雪の中を進むうちに山小屋を発見。そこには古老(高堂国典)と孫と思われる娘子の春坊(若山セツ子)、そして吹雪の為に山小屋に避難している登山家の本田(河野秋武)が暖をとっていました・・・・・・。

60年近く前でかつ終戦後間もないモノクロームの映画ゆえにフィルムも傷だらけで画像もあまりよくない映画ですが、脚本・演出・俳優の力もあって、見所のある娯楽映画に仕上がっています。三船敏郎は前の年にカメラマン助手になりたいために東宝撮影所撮影部にいる先輩の大山年治を訪ねたところ履歴書を出すことになり、それが何かの手違いで東宝第一期ニューフェイス募集に廻って役者として補欠採用。それでも根気強く撮影部の空きを待っているところを、谷口千吉監督に説得されてこの映画にでることになったそうです。ここでの若い新人俳優・三船敏郎はベテラン志村喬と同行して堂々と向こうを張る銀行強盗の仲間の役で、冷酷無比で野獣のようにギラギラと目を輝かせる役どころが異彩を放っています。既に充分大物の片鱗を見せてくれるところが、三船敏郎のすごいところでしょう。もちろん、それを受ける志村喬の懐の深い演技があってこそであることも言うまでもありません。そして一服の清涼剤でもある若山セツ子の溌剌とした娘子姿がとてもかわいいです。若々しく素朴さを押し出した演技は、ストーリーにも深い説得力を与えています。しかし、山小屋でのにごり酒、実においしそう(涎)。

緊迫感溢れるストーリーは、今ではありがちでありながらやはり面白く、観客の目を離しません。元は『山小屋の三悪人』という脚本だったそうで、どこかで聞いた事あると思ったら、後の黒澤監督の映画『隠し砦の三悪人』と似たタイトルじゃないですか(笑)。監督の名よりも黒澤明の脚本であることにスポットが当るのも納得で、かつては戦後間もない混乱期の大変な中でも日本映画はこういう映画を作れたのだなと思うと、二重の意味でため息がでてしまいます。時々思うに、仮の話、もしもある架空の国では、芸能事務所とレコード会社と出版社が映画会社とタイアップして宣伝を多く打つことによってお金を回収することが映画作りだと信じられているのだとすれば、それは文化については不毛な大変不幸な国だという気がします。

そして伊福部昭の音楽は流れる箇所はさほど多くはありませんが、メイン・タイトルを含めて伊福部昭らしい力強さとハーモニーに満ち溢れています。もちろん映画音楽以前に現代音楽の作曲家としての地位を確立していた伊福部昭ですから、しごく当然のことではありますけど。ただその中にも『伊福部昭の映画音楽』の中にある、伊福部昭が後に述べたという映画音楽効用四原則に従っていることは、既に最初から本質をつかんで曲を書いていたことに他ならないのでしょう。中でも野尻と春坊が楽しくスキーをする場面での哀愁を帯びた音楽が印象に残ります。またおそらく脚本にあったと思われる演出意図として重要な位置をしめるSP盤でのフォスターの名曲、「ケンタッキーの我が家」(ケンタッキー州歌にもなっているそうです)は場面に実にあっていて、しみじみするものがあります。

ちなみにタイトルを見て、「銀嶺の覇者」だと思った人はレインボーの聴きすぎです(笑)。この映画からタイトルのみをちょっと変えてとったという筒井康隆の『銀の果て』はこの映画とは内容は全然違いますが、筒井ファンには筒井康隆らしさを堪能できる最新作でした。


【銀嶺の果て 1947年 日本】
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by santapapa | 2006-02-15 23:30 | 邦画
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