北京ヴァイオリン

北京ヴァイオリン

秋の日の ビオロンの ためいきの 身にしみて ひたぶるに うら悲し


上田敏の名訳で知られるベルレーヌの「落葉」の冒頭ですが、ヴァイオリンの音色にはそれ自体に人の心を掻き立てるなにかを持っています。おそらくそれは文字で表すならば、ピアノよりも音程間に自由度があるためにビブラートやグリスなどの奏法が使えて、またその音域から人の声に近い音色を出すと言われている表現力豊かな部分があるからでしょう。そして、きっとそれだけではないでしょう。



中国の田舎町に住む13歳のリウ・チュン(唐韻/タン・ユン)は父(劉佩奇/リウ・ペイチー)と2人暮らしをしていました。チュンは幼い頃から母の形見であるヴァイオリンを弾き、その上手さで地元では結構名が知れてました。父親はそんな息子のために、必死に働きながら、また一流のヴァイオリニストにしてやろうと考えていました。親子で首都・北京へ行って、ヴァイオリンのコンクールに出場するチュン。結果は5位の成績でした。コンクールの直後、ふとした偶然からチュンの実力は1位であると評価してる先生がいることを知った父親は、さらに高い教育を受けさせるために北京に移り住むことにします。コンクールを見たチアン先生(王志文/ワン・チーウェン)に習おうと必死で取り入る父親ですが・・・・・・。

陳凱歌(チェン・カイコー)監督による直球に近い親子の愛情物語がメイン・テーマです。「大人の世界」に浸りきった私なぞには見るまでにはどう映るかが判りませんでしたが、思いの外心に染みてくる映画でした。『あの頃ペニー・レインと』とはまったく違う映画なのですが、親離れ子離れのことや、思春期に入っていく頃の年上の女性に対する憧れの気持ちなど、共通するテーマもありました。

また、この映画の中で最初から最後までいろんな形に変わって出てくるのがお金とそれにまつわる話です。ヴァイオリンを弾いてお金をもらうこと、コンクールでの裏金の横行、先生への月謝、帽子の虎の子を掏られたこと、大事なものを手放してまで贈りたい気持ちなどなど。本当に最初から最後までです。そしてその中で、「お金はとても大切。だけど、時にはそれよりももっと大切なもののあるのだよ」と語りかけてくれるようでした。

練炭がなつかしかったです。日本では最近でも使っているところはあまりないんでしょうね。手だけではなくて服も黒くしながら練炭を運んだり(ついでにその手で顔を触るものだから顔も黒くなるのですが(笑))、石炭のカケラで舗装された道路(私道はほとんどが砂利か土の道)の端にラクガキをしていたガキンチョの頃が思い出されました。

そしてもうひとつ、音楽について先生たちの言葉が当たり前でありながらきちんと重要なことを伝えてくれるのがいいですね。チアン先生は「第一に一生懸命弾くこと、第二に弾く以上は楽しんで弾くこと」、そして「楽器を大事にしろ」と。ユイ先生は「技術を教えることは出来るが、正確なだけではなく音楽に感情を込めること」が大事だとチュンに伝えます。言葉だけ見ると実に当たり前のことのようですが、実際にどれだけの人がそれを実行できていることだか。ヴァイオリンを弓でこすれば誰でも音は出すことが出来ます。その音が音楽になっていくのかは、演奏者と聴き手にゆだねられていきます。そして、音楽を何のために誰のために弾くのか、その解答のひとつをチュンは見つけるのだと思います。

父親役のリウ・ペイチーの、ちょっと気が弱いけど息子のためにはがむしゃらになるステージ・パパぶりがよい演技でしたね。チアン先生を演じるワン・チーウェンもなかなか味がありました。その中で主人公を演じたタン・ユンは最初あまり演技が見られなかったのですが、要所要所では光るものを見せてくれました。

話は全然違いますけど、小さい頃は天才少女の名をほしいままにしたアンネ・ゾフィー・ムターもいつのまにかむっちりした熟女になられているんですね。しかもアンドレ・プレヴィン(かつてミア・ファローの夫で『ハリケーン』が元で離婚したとか)と結婚していると知ってビックリです。


【北京ヴァイオリン(和[イ尓]在一起/TOGETHER) 2002年 中国】
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by santapapa | 2005-11-23 23:49 | 香港(中国・台湾)映画
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