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ボンベイ

ボンベイ

インド最大の商業都市であって貿易港であるボンベイは「良い入り江」という意味の言葉。インド映画を現すボリウッド映画という造語も、「ボンベイ+ハリウッド」から来ています。1995年を境に旧英領の名残をなくすために、大昔に呼ばれていたムンバイと改称しました。ムンバイというのは、ヒンズー教のパールバティー女神の化身「ムンバデヴィ」に由来する名前だということです。



ジャーナリスト志望の青年セーカル(アラヴィンドスワーミ)は久々に故郷に帰ってきた時に出会ったシャイラー・バーヌ(マニーシャ・コイララ)と恋に落ちて、2人は愛し合うようになります。やがて結婚を誓う2人ですが、セーカルの家はヒンズー教徒、シャイラーの家はイスラム教徒であるために、お互いの親も大反対。ところがバーヌはボンベイに戻ったセーカルのもとへ行くと結婚をします。そして新聞記者となったセーカルとバーヌの間には双子の男の子が生まれ成長していきます。6年後の1992年12月6日、インド人民党と世界ヒンズー協会の率いる2万人によるインド北東部のアヨディヤにおけるイスラム寺院=モスクの破壊事件をきっかけにインド全土でヒンズー教徒とイスラム教徒の対立が激化、ボンベイでも殺戮をも辞さぬ大暴動が発生します・・・・・・。

映像に凝ることでは定評があるマニ・ラトナム監督の問題作。この映画が公開されるや、監督の自宅に爆弾が投げ込まれるという事件がおきたりもしたそうです。インド国内での植民地時代を含む歴史の深く大きなテーマでもあるヒンズー教徒とイスラム教徒の対立問題を扱っているだけに、いろんな反響もおおきかったそうですが、結果的には本国では大きなヒットにもなった映画だそうです。

なにせ本来イギリスが撤退後にインドとして一緒に独立するはずだった地がパキスタンとなって、現在もインドの名指しの敵国であることも、あのマハトマ・ガンジーがヒンズー教徒とイスラム教徒の和解を願って引退の身から復帰して力を尽くした結果、自分と同じヒンズー教徒に暗殺されたのも、この宗教対立が大きな影を落としているようです。この映画でも述べられてるアヨディヤでのモスク破壊事件は実際に起こった事件で、この時にインド各地でイスラム教徒が2000人以上も殺戮されたとのことです[参考コラム]。この映画はその直後に作られています。

今の日本にいると過激な宗教対立や紛争と無縁であまりピンとこない事柄だと思えますが、貧困、飢餓や天災、紛争などなどのよる大きな括りでの不幸に身を置いている場合には宗教が大きな心の拠り所になることは否めないでしょうし、また宗教は人が作ったものである故に絶対的な性格を持たざるをえない存在であるにもかかわず、持つ者によって同じ宗教内でさえ齟齬がおこらない訳もなく、そこに対立の構造が生まれてくるのでしょう。もっと普遍的に見るのであれば主義主張、民族間、国家間の対立も同じような構造を持っている部分があるのではないでしょうか。そういう意味では決して遠い話でもない訳です。

とは言ってもそこはこの『ボンベイ』もインド映画。歌に踊りに恋にアクションにと、インド映画のオヤクソクであるエンターティンメントがてんこもりです。当然のように休憩を挟んで2時間半近くもあるのですが、それを飽きさせないだけの娯楽たっぷりの要素もあって、それがメッセージ性の強い映画と混ざり合って融合しています。逆に言えばもしかしたらラストの作り方も含めて、インドではこのような形式でないと広く上映できなかったり、多くの支持を受けることができないのかもしれませんが。もちろん、映像は随所にはっとするような場面を見ることができました。

監督も描きたかったことのひとつでしょうが、結婚前にあれだけ大反対したお互いの父親が孫の誕生で宗教を超えて仲良くなる場面とかは、本当に嬉しくなる場面です。それだけに火事の中、コーランを持ち出すシーンは心にぐっときましたけど。また夫婦のラブラブな描写がとても微笑ましく、見ている方がうれしくなるような感じでした。子供を授かった時の歌や、「女の子がほしい」と親子でねだるシーンの歌とかは、もうインド映画ではないと見ることができない場面でしょうなあ。その美しさで目を楽しませてくれた主演女優のマニーシャ・コイララはネパール出身で、ネパールの首相を4度務めたネパール会議派の党首ギリジャ・プラサド・コイララ(先月も現王政下にあって、首都カトマンズでの民主化デモに参加して昏倒したそうです)の姪。 マニーシャ自身はヒンズー教徒でありながら役柄はイスラム教徒を演じていました。

音楽はマニ・ラトナム監督との出会いが映画音楽に入るきっかけになった、おなじみA.R.ラフマーン。この映画ではオーソドックスなスタイルからヒップホップ調の曲、ラフマーンならではの凝ったアレンジによる曲など実に多彩なスコアを書いていて、才能の赴くままに書いているといった感があります。父親の死がきっかけでヒンズー教からイスラム教徒に改宗し(A.R.RahmanというペンネームはつなげるとARRahman=アラー神を信じる人という意味だそうです)、自宅を守るために警備を警護にしていると言われているラフマーンのことですから、この映画には強い思い入れがあったのではなかろうかという想像にかたくないです。


【ボンベイ(BOMBAY) 1995年 インド】
by santapapa | 2005-10-15 23:26 | インド映画
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