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CALLE 54(カジェ54)

CALLE 54

フェルナンド・トルエバ監督による音楽ドキュメンタリー映画で、私が生まれてこの方見た音楽映画の中でも、最高のもののひとつです!



そもそもこの映画の企画は、映画の冒頭でフェルナンド・トルエバ監督自身が語っているように、アントニオ・バンデラス主演のコメディ、『あなたに逢いたくて』を撮る時に、自分の好きな音楽で固めようとミッシェル・カミロを音楽監督にしてラテン・ジャズ関係のミュージシャンを使ったことがきっかけだそうです。

この映画は曲と曲の間の短い経緯の説明を除くと、すべて音楽を聴かせて見せるために存在しています。音楽映画と称するもので、よくあるパターンがインタビューやドラマを長々と見せて、曲が少しだけだったり曲の途中でナレーションを入れたり、ぶち切ったりするもの。監督が言い表わしたいものを見せるためにそうしているのでしょうが、ドラマのために存在するサウンド・トラックならともかく、音楽映画で音楽を聴きたい人間にとっては不快この上ありません。よくある音楽番組でも、音楽が切り刻まれたりしているのを見ると悲しくなります。私は見てないのですが、友人によると最近も愛知万国博覧会での「渡辺貞夫リズムワールド」の放送でも、曲の最中に遠慮なくナレーションがかぶさっていたそうで。

その点、この映画では「音楽を聴いてくれ!!」という気持ちがよく表れている映画です。舞台装置すらない、見かけはシンプルな構成。カメラ・ワークは見ようによってはちょっとうるさい感じもしないでもありませんが、メロディ担当のみならずバックを支える楽器の動きも頻繁に捕らえています。画面全体に躍動感と喜びを十二分に映し出している映像と言えるでしょう。曲が終わった後もしばらく演奏者の表情を映し出していて、それがまた素晴らしい。また時折、ピアノのペダルから始まって身体の線をなぞるように顔まで移動したりといった動きもあったりします。

昔、まだビデオが普及していなかった頃にはフィルム・コンサートと言って、キャンディーズとかのライブを収録した映画形式のライブ映像上映会があったりしていました。また、『レッド・ツェッペリン 狂熱のライブ』のようにマジソン・スクェア・ガーデンでのライブを中心にした映画もあったりします。この映画はそれに近くもあり、またもっと映画としてのコンセプトが見える映画にもなっています。

そしてこの映画にもドラマはあって、ベボ・バルデスとカチャーオことイスラエル・ロペスとの夢の共演!!採り上げた曲も ミゲール・マタモロスによるキューバのスタンダード・ナンバーである「黒い涙」=「Lagrimas Negras」でした。ピアノとベースのデュオによる2人の老人による「対話」にも似た演奏がすばらしく、ため息がでそうでした。この曲自体、昔オルケスタ・ア・ラ・ヘンテでやっていたので、感慨も深いです。

また、ベボ・バルデスがイラケレのリーダーで息子のチューチョ・バルデスと再会して演奏する場面。ピアノ・デュオで「La Comparsa」を演奏しますが、父親の精気溢れる激しくも優しい眼差しが非常に印象的でした。まさに映画ならではの場面でした。

そして、この映画の作られた2000年5月に77歳で亡くなったティト・プエンテ。演奏前に壁画で紹介しているディージー・ガレスピーやカル・ジェイダー、チャ-リー・パルミエリらラテン・ジャズを作り上げてきた巨匠と共に同じ時代を歩んだラテン界のマンボ・キングですが、これが最後の姿になってしまいました。相変わらずいたづらっ子のように茶目っ気たっぷりに演奏する姿は、あの年齢にしてまだ亡くなるのが早すぎたとさえ思わせる溌剌とした演奏です。それに答える周りのメンバーも素晴らしく、まさにラテン・ジャズの王道といった演奏を聴かせてくれます。数多くのライブ映像や、『マンボ・キングス わが心のマリア』などの映画にも出演しているのを見てますが、どの映像よりもなんだか身近に感じられるティト・プエンテがそこにいました。

その他、ガトー・バリビエリが音楽活動を中止していたことの述壊も印象に残りましたし、素晴らしいライブ・アクトは挙げていくときりがないのですが、エンディングでの出演者を紹介する演出!このしゃれっ気たっぷりの見せ方もフェルナンド・トルエバ監督ならではのセンスではないでしょうか。とにかく隅々にまで音楽に対する愛情が染み込んでいる気がします。

この映画で採り上げられたラテン・ジャズは、意外にジャズ好きにもサルサ好きにも継子的扱いされかねない存在であったりします。私はラテン・ジャズは大好きで、ポンチョ・サンチェスが来日するといえば見に行って、この映画にも出たパキートやカミロ(は実はそんなに好きじゃないんですが(苦笑))も昔はコンサートに行きました。もっと多くの人に愛好してほしい音楽だと思っています。

この映画で演奏される曲目は以下の通り。

1:Panamericana - featuring Paquito D'Rivera 
2:Samba Triste - featuring Eliane Elias 
3:Oye Come Viene - Featuring Chano Dominguez 
4:Earth Dance - featuring Jerry Gonzalez 
5:From Within - featuring Michel Camilo 
6:Bolivia - featuring Gato Barbieri 
7:New Arrival - featuring Tito Puente 
8:Caridad Amaro = featuring Chucho Valdes 
9:Afro-Cuban Jazz Suite - featuring Chico O'Farrill 
10:Lagrimas Negras - featuring Bebo Valdes & Cachao 
11:Compa Gayetano - featuring Orlando 'Puntilla' Rios with Carlos 'Patato' Valdes 
12:La Comparsa - featuring Bebo Valdes & Chucho Valdes 

ラテン・ジャズが好きな人はもちろん、多くの音楽好きに、ぜひ見てもらいたい映画です。ちなみに『CALLE 54』とは、「Street 54」すなわち、バードランドなどのライブハウスがあるがあるニューヨーク54番街のことだそうです。


【CALLE 54(カジェ54)(CALLE 54) 2000年 スペイン=フランス】
by santapapa | 2005-06-20 21:42 | 音楽(ライブ)映画
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