【武満徹】

現代音楽家として世界的に知られている作曲家が武満徹です。映画音楽も数多く手がけていて、本人も「映画と音楽」について講演したりと、映画には並々ならぬ興味を持っていたようです。



1930年10月8日に東京都で生まれた武満徹は保健会社に務める父親の勤務地の大連で幼少期を過ごしました。14歳の頃は海軍のパイロットになりたかったそうなんですが、予科練の試験で不合格、また戦時中に聴いたシャンソンによって、音楽に大きな興味を持ちます。清瀬保二に作曲を師事しますが、基本はほとんど独学。家にピアノがなかったので紙鍵盤で練習したり、ピアノのある家に上がらせてもらって、弾かせてもらったなどというエピソードも残っています。1950年に処女作であるピアノ曲『2つのレント』を発表、1951年には作曲家の湯浅譲二らと「実験工房」という芸術集団を作って活動をして、次々に作品を発表します。1956年、永井荷風原作の小説を中村登監督が映画化した『つゆのあとさき』を始めとして約100本程の映画の音楽を担当しています。また現代音楽の作曲家としても、『弦楽のためのレクイエム』がストラビンスキーに認められたり、1967年にはニューヨーク・フィル125周年記念の作曲を当時の常任指揮者であるレナード・バーンスタインに依頼されて、琵琶と尺八とオーケストラによる『ノヴェンバー・ステップス』を書き、押しも押されぬ作曲家としてその名を不動のものにします。1996年2月20日、がんのために享年65歳で亡くました。

主な作品は以下の通り(goo映画)。
http://movie.goo.ne.jp/cast/46616/index.html

思い出深い曲は、五木寛之原作の映画で主題歌もヒットした『燃える秋』です。「翼をください」や「竹田の子守唄」でヒット曲を出したフォーク・グループの赤い鳥が解散して、ハイ・ファイ・セットと紙ふうせんになってから4年経った頃の映画です。この曲を歌ったハイ・ファイ・セットにとってもヒット曲になりました。ちなみにハイ・ファイ・セットのメイン・ボーカルだった山本潤子は、今もソロで活動しています。もちろんこの主題歌も武満徹の作曲です。武満徹自身、その他にポピュラーな作品もいくつか書いていて、石川セリなどがレコーディングもしています。

『どですかでん』の音楽も心に残ります。映画の題名自体電車の擬音だったりしますが、独特の世界観をよりいっそう印象深くしてくれました。鈴木大介が渡辺香津美と共演した武満徹の作品集の中にも、この『どですかでん』の音楽が採り上げられています。

『乱』については音楽自体もさることながら、この作品を最後に武満徹が黒澤明の仕事は二度としないと誓った作品としても有名です。文春文庫から出ている野上照代著『天気待ち 監督・黒澤明とともに』にその経緯が載っています。『影武者』で佐藤勝が音楽担当を降りた時に代役を頼まれた武満徹はちょうどUSAにいてその時には池辺晋一郎を推薦したことや、『乱』の制作に入って音楽を担当してからの軋轢。そしてフィルムへの音楽のダビング時に、ティンパニーの迫力を出すためにテープの回転を落とすように黒澤明が言ったために、ついに堪忍袋の尾が切れます。

この時、武満さんは、ついに立ち上がった。
「黒澤さん! 僕の音楽を切っても貼っても結構です。お好きなように使って下さい。でも、タイトルから僕の名前をけずってほしい。それだけです! 僕はもう、やめる。帰ります!」
武満さんは、そんな意味のことを言うと、楽譜や鞄を抱えて出て行った。マネージャーの宇野さんが沈痛な面持ちで続く。私は、帰りの車を、と慌てて追いかける。
場内はただ呆然。凍りついたように見送った。


この後プロデューサーの必死のとりなして、なんとか和解にこぎつけます。そしてダビングの最終日、打ち上げの時に黒澤明が引き上げた後、武満徹はピアノの前に座って、「これは黒澤さんに捧げる歌なんだ」と言って弾き語りを始めたそうです。

 「昨日の悲しみ、今日の涙
  明日は晴れかな、曇りかな
  昨日の苦しみ、今日の悩み
  明日は晴れかな、曇りかな」


これが武満徹の曲として親しまれている「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」の原型だといわれています。そして、その後は黒澤明の映画音楽を二度とやることはありませんでしたが、『武満徹 音の河のゆくえ』の「映画と音楽」の講演記録を読むと、映画監督としての黒澤明を認めている部分もしっかりと持ち続けていたようです。

また、武満徹の現代曲には鳥をテーマにしたタイトル、そして水をテーマにしたタイトルがありますが、タルコフスキーの追悼として「ノスタルジア -アンドレイ・タルコフスキーの追憶に-」という曲を作っているように、タルコフスキーが好きであったそうです。前述の「映画と音楽」の講演でもそのくだりがありますし、このようなインタビューもあります。


『明日ハ晴レカナ、曇リカナ ~愛への祈り~』上山美恵子(試聴あり)
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by santapapa | 2005-05-13 23:51 | 映画音楽
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