天平の甍
昔好きだった作家の一人に井上靖がいます。「蒼き狼」、「楼蘭」、そして「天平の甍」など、大陸を舞台にした歴史物語にはわくわくさせられたものです。
奈良時代に朝廷は、律令国家を確立し、仏教を広めることを大きなテーマとしていました。その中で大陸の文化を吸収する意味でも遣隋使に続く遣唐使が企てられていて、天平五年(733)春には第九次遣唐使船が大津浦を出航。若い日本人僧の普照(中村嘉葎雄)、栄叡(大門正明 )、玄朗(浜田光夫)、戒融(草野大悟)等が再び日本に帰れる保証もないまま、船に乗り込みます。四人が拝命した任務のひとつは唐の高僧に渡日してもらえないかと要請することでした。洛陽から長安を巡り10年の歳月をかけて、途中戒融が仏陀の真理を悟るために一人離れてしまうなどのこともありながら、道抗(陶隆司)の高弟である鑒真(鑑真)和上(田村高廣)が一同の熱意にほだされて渡日を決意します。ところが許可なく日本人僧が帰国することは許されず、中国人僧が勝手に渡日するこも禁じられていました。張警備隊長(沼田曜一 )の監視下、栄叡と道抗は密出国の主謀者として逮捕され、玄朗は一行から別れて還俗してしまいます。そして道抗は獄死してしまい、三年後に栄叡は釈放されます。 天宝七年(748)に鑒和上は渡日を企てますが暴風雨に遭遇して失敗、度重なる疲労から失明してしまい、栄叡は疲労と熱病でとうとう亡くなってしまいました。朝廷は第十次遣唐船を遣わして、普照や駐唐大使の藤原清河(高野真二)の働きと張警備隊長の温情で、鑒真和上と普照は日本へ帰る船に乗ることが出来ます。第九次遣唐使船から既に20年が経過していました。だがその船も暴風雨に見舞われ、写経した厖大な経典を人命救助のために海中に投げ捨てられ、唐で写経に一生を捧げていた業行(井川比佐志)も自ら経典と共に海に身を投げます。ようやく船は薩摩の秋妻屋浦に着き、一行は奈良に向かい迎え入れられた鑒真和上は、日本の仏教の発展に寄与することになります。 原作は井上靖の歴史小説「天平の甍」で、ほぼ原作にそった内容です。というよりは真面目に歴史に即して作っています。枝葉末節を切り落としても2時間半、遣唐使船作りや中国でのロケーションも含めて超大作映画でした。映画でも主役の一人でもある鑑真をはじめ、吉備真備や阿部仲麻呂などの有名人(笑)が出てくるので、そういう親しみやすさはありました。スケールの大きな映画です。航海技術もが未熟な時代において、命をかけて長い時間の流れの中で苦労をしながら文化を伝えていこうとする姿には素直に感銘を覚えました。 業行が一生をかけて写経した経典と共に運命を共にするシーンが印象的でした。荒れる海上とは違って静寂を称える海中で経典が海草のように揺れるシーンは今でもはっきりと覚えています。また、普照が20年ぶりに日本に戻って昔の許婚に会うシーンもぐっときました。未だにLDはおろかDVDにもなっていないみたいなのが残念です。 音楽は日本を代表する作曲家である武満徹。次の年には「海へ」や「雨の樹」を作り、2年前にはハイ・ファイ・セットの主題歌でも知られる『燃える秋』の音楽も担当していますが、 この年は「遠い呼び声の彼方へ!」も発表している非常に充実した年ではなかったのでしょうか。スケールの大きさを感じさせてくれるサウンド・トラックでした。 【天平の甍 1980年 日本】
by santapapa
| 2005-03-05 21:52
| 邦画
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心に残る映画、ウキウキする映画、トホホな映画などについてをつれづれなるままにつづります。レビューは偏った主観なのでそこはそこで。トラックバックはカテゴリーの「トラックバックについて」参照。 by santapapa
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