海と毒薬

海と毒薬

第二次世界大戦末期に九州大学医学部で起こったという事実を元に小説にした「海と毒薬」を映画化したものです。原作はキリスト者である遠藤周作です。



昭和20年(1945年)5月、日本は敗色濃厚で九州でも毎晩のように空襲が繰り返されていました。帝国大学の医学部研究生の勝呂(奥田瑛二)と戸田(渡辺謙)は物資も不足して困窮する状況の中で投げやりな毎日を送っていました。この頃亡くなった医学部長の椅子を巡って勝呂たちが所属する第一外科の橋本教授(田村高廣)と第二外科の権藤教授(神山繁)の派閥争いが激化しています。形勢不利な橋本は結核で入院している前医学部長の姪の田部夫人(黒木優美)の手術を前倒しで行いますが、簡単であるはずのその手術に失敗してしまいます。そんな中で勝呂が気にかけていた助かる見込みのない貧しい患者である”おばはん”(千石規子)の手術が、「どうせ死ぬ患者なら実験材料に」という教授の思惑で決まりますが空襲の夜に亡くなってしまいます。数日後、勝呂と戸田は教授に呼ばれてB29爆撃機に乗っていた捕虜八名の生体解剖を手伝うように命じられます・・・・・・。

全編をモノクロームの映像にしているのは、1945年という時代を伝えるようにと考えての部分もあるでしょうし、効果としての部分もあるでしょう。また手術のシーンが多いことから、グロテスクな部分の緩和という意味もあるかもしれません。それでも映像から伝わる手術の緊迫した雰囲気は迫ってくるものがあり、モノクロームでありながら血が赤く感じられる映画です。

映画では尋問の場面から回想を通じて話が展開していきますが、登場人物それぞれの体験や思惑がからんでいくように描かれています。

人が他人を自分と同じ思い悩み痛みを伴う人として認識するのは、口で言うのはたやすいことですが実は大変難しいことです。自分は他人と同一にはなりえませんから。実際のところ、他人の心はほんの一部でさえ察することは難しいですし、他人を傷つけても実際の痛みを感じることはできません。だからこそそれを補うために多くのことを経験や知恵から学び、話し合いを重ねることが必要だと思うのです。人を切り刻み殺すと言う行為は異常ではあるのですが、それができる人がいるということは何かのきっかけで人はそういう素養を備えているということでもある訳です。そして死んだ人はどんなことがあっても、決して二度と戻ってはきません。

音楽は『忍ぶ川』、『ひかりごけ』なども担当した松村禎三。伊福部昭の弟子で「管弦楽のための前奏曲」など多くの現代音楽を書き、遠藤周作が原作のオペラ『沈黙』は高い評価を受けています。吉松隆の師匠でもありますね。タイトル・バックの曲を初めとして、松村禎三らしいオーケストレーションによる曲が映像に更なる効果を上げています。


【海と毒薬 1986年 日本】
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by santapapa | 2005-02-12 01:55 | 邦画
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