世界大戦争以前からDVD化を望んでいてこの度やっとリリースされた、東宝制作の知る人ぞ知る特撮映画です。1961年の古い映画ですが、当時「もし核戦争起こりなば」というテ-マを描いた入魂の作品です。 第二次世界大戦から16年たった1961年、対立する同盟国側と連邦国側は一触即発の状態でした。今度戦争が始まったら核ミサイルが全人類を灰にし,人類の滅亡は必至であるのです。アメリカ・プレス・クラブの運転手・田村茂吉(フランキー堺)は前後、裸一貫から身を立ち上げて3人の子供をもち、ささやかな幸せを築いいました。娘の冴子(星由里子)は二階に住む船舶通信技師の高野(宝田明)とは将来を誓い合った恋人同士でした。そんな中、両陣営の空気はますます悪化して遂には戦闘状態に。新たな世界大戦が始まることになります・・・・・・。 1961年といえば第二次世界大戦が終わってわずかまだ16年、サンフランシスコ平和条約による独立から9年というという戦後間もない頃でしたが、朝鮮戦争による特需もあって、驚くべき速さで復興を遂げてきた時代です。それはまた映画の冒頭で当時の街や生活をそのまま映しながら、「戦後16年、一面の焼け野原からともかく大都会と呼ばれる姿に復興したのは、人々が働いたからである」というセリフがかぶさりますが、けだし至言というべきでしょう。3年前に東京タワーを建てて、この3年後に東京オリンピックを控えて東海道新幹線を作りつつあった頃でもあります。 東宝としては日本であるからこそ作れる映画だということで世界に出すことを前提に作っていて、非常にメッセージ性の強い作品になっています。脚本も題名も何度も練り直して変更したということで、実際映画全体を通して気合が入っていることが感じられます。平和に向けて真摯に努力をする首相を中心とする日本政府の姿はその理想を映し出しているものでしょう。保育園の娘に会おうと人波に逆らって行こうとする母親、田村家の子供が無邪気にごちそうに喜ぶ最後の晩餐の場面、冴子と高野がモールス信号で最後の会話をする場面など、涙腺がゆるいからか後半はぐっとくる場面が押し寄せてきました。 人々が避難して廃墟と化した街で経を挙げながら歩く法華経の人、保育園に残った子供にイソップの「2匹のヤギ」の絵本を読む場面などは、描写の細かさが目を引きました。 物語の中で何度か核ミサイルが発射されそうな危機の描写があるのですが、当時の人々が一番危惧を持ってたことでもありでしょう。実際、この翌年のキューバ危機の際に、核弾頭を搭載した魚雷の発射命令が出て士官のアルキポフがそれを拒否したためにすんでのところで免れたという事件も起こっているので、あながち想像の産物でもなかったことになります。 円谷英二の特撮は43年前のもので『ゴジラ』と『ウルトラQ』の間の時代ですから、当時としては世界的に見ても驚くべきハイレベルのものでしたが、ミニチュアの造形とか今の目から見ると貧弱に見える部分もあります。しかし、終末の描写はカット割りも含めて見事としか言うよりは外ない仕上がりになっています。国会議事堂の上空に見える光の点がやがて光を放ち、富士側面に映える閃光、そして禍々しいキノコ雲の描写はくっきりと強い印象を心に刻みつけます。 音楽担当の團伊玖磨は現代音楽畑でよく知られていて、オペラ『夕鶴』やオペラ『ひかりごけ』などが代表曲として知られています。意外なところでは、皆さんがよく知っている「ラジオ体操第二」の作曲者でもあります。この映画では冒頭の真っ暗の画面でのオーケストラの序曲から、最後まで團伊玖磨らしいメロディがちりばめられた音楽になっています。 ラストで滅亡した東京にそれでも帰ろうとする笠置丸の上で笠智衆扮する炊事長の江原が、「人間はすばらしいもんだがなあ。一人もいなくなるんですか、地球上に・・・・・・」とつぶやくセリフは今なお重い一言です。 【世界大戦争 1961年 日本】
by santapapa
| 2004-12-26 23:38
| 邦画
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心に残る映画、ウキウキする映画、トホホな映画などについてをつれづれなるままにつづります。レビューは偏った主観なのでそこはそこで。トラックバックはカテゴリーの「トラックバックについて」参照。 by santapapa
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